2017年9月8日金曜日

「マタイ受難曲」

光学など担当の岩室です。

今回は音楽の話題です。
私の所属している京都混声合唱団では現在、バッハのマタイ受難曲の練習をしています。この曲はクラシック宗教音楽の最高峰とされる曲の1つで、演奏速度にもよりますが全曲を省略なく演奏すると3時間半もかかる非常に大きな曲なのと、ソリストが多かったり古楽器や少年合唱が必要になるなど、演奏会としても通常より費用のかかるものとなるため、永く合唱を続けていてもなかなか演奏できる機会のない曲です。私は30年前のまだ学生だった時代に京都混声で一度歌っていますが、その際は何が何だかわからぬままに終わってしまったので、今回は曲を良く理解して歌いたいと考えています。

マタイ受難曲は、新約聖書の「マタイによる福音書」にあるキリストの受難を宗教音楽にしたものですが、神の子であるキリストの崇高さに対し私利私欲にまみれた民衆や、自己保身を悔いる弟子の心情など、非常に奥深い人間の深層心理が緻密に設計された音楽で表現されています。
例えば、曲の要所要所で「コラール」と呼ばれる讃美歌をベースとする曲が入るのですが、その内の幾つかのグループはそれぞれ共通の旋律が引用されています。実はそれぞれの場面で訴えたい内容が歌詞だけでなく、共通するテーマに対しては同じ旋律が引用されており、それぞれの旋律には共通の概念が与えられています。何となく感じてはいたのですが、知れば知るほどこの曲の奥深さには感心してしまいます。
「マタイ受難曲 解説」でネット検索すると多くの文書が出てきますので、来年の本番までにはまだまだ勉強のしがいがありそうです。

演奏 CD としては30年前に大枚はたいて購入した1980年のリヒター版(LP 4枚として出ていたものをこの頃登場した CD 3枚に焼き直したもので、ペーター・シュライヤーやフィッシャー・ディスカウなど当時のビッグネームによる名盤です)を持っていて、何十年ぶりに取り出したところ、高級品ゆえに入っていたスポンジがCD本体と反応して悲惨な状況になっていて大変ショックでした...



あまりにがっかりだったので、箱とケースと解説書は置いておいたものがこの写真です。箱入りの CD なんていうのは後にも先にもこのマタイだけです。何とか中身だけでも取り戻したいと思っていたところ、今のご時世ちゃんと YouTube 1980年のリヒター版が出ているのですね。YouTube で "Matthaus Passion Richter" で検索すると 58年版(一部不良あり)71年版(ビデオ)80年版が全て聞けます。私としてはやはり昔聞いていた80年版がリヒターの集大成のように感じて一番しっくりきますので、とりあえずこれで復元しちゃいました。

京都混声の演奏会では演奏に合わせて50インチモニタとパワーポイントで歌詞対訳や挿絵の表示を行っています。準備したデータを見返したりしながらマタイに対する理解を深めようとしているのですが、まだどうしても理解できないのが60番のアルトのアリアです。キリストが十字架にかけられて大変重苦しく悲惨な状況にあるのに、なぜか歌詞や音楽としては涼やかで軽やかなものとなっています。キリストが超越した存在だからこそこのような表現になるのでしょうが、キリスト教の信仰が深くないと根底からは理解できないのかもしれません(ちなみに私は無宗教です)


世の中にはオタクと呼ばれる人々がたくさんいますが、研究者はその分野でのオタクですし、上記マタイ受難曲の研究をしている人たちもオタクです。まあ、こういうオタクの存在する分野はそれだけ奥が深いということですね。




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