2015年1月23日金曜日

近傍の系外惑星探査

皆様、ご無沙汰しております。
観測装置担当の松尾です。

今週、大流行しているインフルエンザA型に感染してしまい、子どもへの2次感染予防のため、家の中で隔離されております。今日は、そんな病床からブログをお届けしています。

年末からお正月にかけて様々なメディアで太陽系外にある惑星探査の話で大きく盛り上がりました。その話の一つにあったのが、「The Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS)」計画です。
この計画は、マサチューセッツ工科大学が中心となって推進しているスペース計画で、2017年に打ち上げを予定しております。英語名の通り、ミッションの内容は、トランジットを起こしている系外惑星の探査衛星です。
ご存知の方も多いと思いますが、トランジット(食)というのは、私たちに身近な月食や日食のように、ある天体が別の天体を隠す天体現象のことを指します。例えば、日食であれば、太陽ー月ー地球(私たち観測者)の順に並ぶことによって、 太陽の光が月に隠されてしまいます。
同じように、私たち観測者と系外惑星とその親星がちょうど一直線になるときに、惑星は、その親星の光の一部を隠すために、親星の光が僅かに暗くなります。系外惑星は、親星の周りを公転していますので、公転周期ごとに親星は暗くなります。
TESS計画は、夜空に浮かぶ50万個の星を観測し、周期的な減光を調べることによって、惑星の存在を発見します。

では、今や2000ほどの惑星の発見がある中で、メディアにTESS計画は注目されているのでしょうか?
その一つの理由が、TESS計画が見つける惑星にあります。TESS計画は、精度よく星の明るさを測ることに長けています。その結果、小さな惑星が親星の前を通過することによる僅かな減光も見逃しません。つまり、地球と同じような惑星を見つけることができるのです。
また、私たちのすぐ近くの明るい星たちを観測するのに長けています。
このように、TESS計画は、生命を宿す可能性のある惑星候補を見つけてくれるでしょう。このような惑星候補は、将来のTMT計画でその惑星上の大気組成や表層環境を明らかしてくれると期待しています。

ちなみに、このTESS計画よりもずっと前に、Kepler衛星というのが2009年に打ち上げられ、同じコンセプトで地球サイズの惑星を多数発見して大成功を収めています。
ただ、この時は望遠鏡が大きい(1m弱)ので、明るい星の観測には向いていませんでした。その代わり、同じところを遠くまで見渡すことで、惑星の統計的な研究が発展しました。


皆様もTESS計画に注目してみてください。

2015年1月16日金曜日

お役立ち情報 その1

光学など担当の岩室です。

 現在、すばるユーザーズミーティングという会合に出ています。この会合は、日本が1998年にハワイに建設したすばる望遠鏡(鏡の直径が8.2mの世界最大クラスの望遠鏡です)の使い方や、これから国際協力でハワイに建設する30m望遠鏡の状況など、様々なことが報告・議論される会合で、京都からも多くの人が参加しています。

 今回の話はこれとは全く関係ないのですが、最近思いついたちょっとしたアイデアで、まあまあ役に立っているのでメモも兼ねてここで紹介しておきます。皆さん、ビニール傘を使うことがよくあるかと思いますが、骨の先端からビニール部分が外れて捨てちゃったりしますよね。布の傘なら糸で縛って直そうかと思うのですが、ビニール傘の場合はそこまでして直そうという気はなかなか起こりません。これ、実はクリップとベンチがあれば簡単に直せます。百聞は一見しかずということで、以下の写真を見て下さい。




  ポイントは、骨の先端はパイプ状になっていて、クリップ程度の針金は2本程度は突っ込めることです。これで、ビニールが外れた程度で捨てなくても済みますので、皆さんもご利用下さい。
今後も、日常のちょっとしたアイデアが浮かんだ場合はここで紹介していきますので今回はその1としておきます。


  以下は宣伝ですが、今月末に私の所属する京都混声合唱団の演奏会があります。



京混'15 磯田先生に感謝をこめて

  ご興味ある方はよろしくお願いします(読む頃には終わっちゃってるかもしれませんが...)



2015年1月9日金曜日

たまには観測!

プロの天文学者は、晴れていれば夜な夜な観測していると思われているらしい。だが、一般にはそうではない。しかし、今回はそうである。とはいえ、夜な夜なではない。(なんのこっちゃ)
 
3.8m望遠鏡を使って重力波天体の可視分光観測に挑もうという計画がある。本ブログでも紹介したガンマ線バーストのうち、ガンマ線で輝く時間が短い「ショートガンマ線バースト」と呼ばれる天体は有力な重力波天体候補であると考えられている。ガンマ線バースト の検出位置精度はあまりよくない。しかし、X線でその残光が検出されれば数秒角の精度で位置が決まる。(数秒角と言われてもピンとこないかもしれないが、例えば満月の直径は角度で30分角なのでその1/6030秒角になる。)とはいえ、数秒角でも一般的な天体の分光器には広すぎる。そこで、例えば30秒角の視野内を同時に分光観測できる装置の登場となる。これがあれば、正確にはどこにいるのかわからないターゲットの分光もできてしまう。こういう装置を面分光装置という。

我々のグループでは3.8m用の面分光装置を開発しており、まずは国立天文台岡山天体物理観測所の188cm望遠鏡への装着を目指している。我々の観測装置は主に3つのパートからできている。望遠鏡の焦点面に、光ファイバー127本を束ねたファイバーバンドルが設置され、これが入口のパート。これらの光ファイバーが、ずずずいーーと20m以上のびている(ファイバーパート)。そしてその先は、望遠鏡ドーム床においてある分光器に入る。分光器パートは既存だけどファイバー用に少々改造が施されている。このあたりの配置については写真参照。

そういうわけで、この半年の間に2回岡山天体物理観測所に行って188cm望遠鏡に面分光装置を装着して試験観測を行ってきた(10月半ばと12月末)。とはいえ、1回の観測では2晩程なので、夜な夜なではない。京大の研究員の松林君、観測所の神戸さんや筒井さん達と観測装置の取り付け作業等を行ったり、分光器の調整をしたりした(これは昼間の作業で数日かかった)。1010日夜には明るい星の光を分光することに成功し、無事ファーストライトを迎えた(さすが特異日!)。よく晴れれば標準星を観測して装置の感度を調べたり、暗い天体の観測を行って計算通りの感度が達成されているか調べるためのデータを取得する。また面分光なのでひろがった天体も観測して、装置の空での方向をチェックしたりする。それ以外にも、天体の導入精度や観測手順確立のためのテスト観測を行う必要もある。その他、観測データを科学的に意味のあるデータにするためには、色々なデータを取得しないといけない。例えば、波長較正といって、波長のわかっている光を面分光装置に入れて、CCDのどこが波長何μmに対応するか対応関係をつけたり、その安定性をチェックしたりする。こういった作業は必ずしも夜でなくてもよいので、もったいないから昼に観測(?)を行うことになる。
と、いうわけで、プロの天文学者は時に昼夜を問わず観測をする、のであった。


太田@20141231





上:188cm望遠鏡と面分光装置。ファイバーバンドルは望遠鏡お尻の黄色の枠内に搭載されているが、写真では小さくて見えない。ここから光ファイバーが出て、望遠鏡背面、左に見えるピア(コンクリートの斜柱)を伝って、ピアの向こう側の分光器に入る。

下:ドーム床におかれた分光器(黄色の枠に囲まれた青い箱状のもの)。上から黒いチューブが垂れ下がっているが、この中に光ファイバーが入っていて、チューブが分光器中に入っていく。