2014年11月26日水曜日

物理と化学

制御担当の木野です。

 ちょっと前の話題ですが、今年のノーベル物理学賞に実用的な青色LEDの発明で赤崎氏、天野氏、中村氏の3名が選ばれました。
青色LEDやこれを応用した白色LEDは今この文章を書いているパソコン画面のバックライトをはじめ、部屋の照明や信号機など広く生活の中で使われています。

この青色LEDの開発競争は半導体材料に何を使うかが鍵で、セレン化亜鉛や炭化珪素を使った青色LED(輝度が低いため普及しませんでしたが)上記3氏の発明以前から研究されていたそうです。
材料となる物質の性質を解き明かしていくのは物性物理学の分野なのですが、同じことを実験を通して現象論的にアプローチしていけば化学の分野でもあります。
なので今回の青色LEDの発明は、解釈の仕方によってはノーベル化学賞の可能性もあったのではないか思います。

一方、日本人受賞者がいなかったため話題とならなかった今年のノーベル化学賞。選ばれたのは超高解像度な顕微鏡の開発です。
彼らが作ったのは蛍光顕微鏡と呼ばれる方式で、観察したい試料に紫外線を当てることで試料が出す蛍光を観察します。
紫外線をあてるスポットサイズを小さくするほど解像度が上がりますが、その紫外線の波長程度より小さくすることはできません(回折限界と言います)
そこで彼らはスポットの周囲に蛍光を出させなくする(専門的な言葉で誘導放射を起こさせる)別の光をドーナッツ状に照射して「穴」の部分だけ蛍光を出せるようにすることで、より高い解像度を実現しました。
非常に乱暴に要約すると「像がボケるなら、ボケた部分の余分な光を消してしまえば良い」という逆転の発想です。
この顕微鏡、化学の分野で大きな貢献があったことは確かですが、原子が光を出す仕組みを上手く応用して高解像度を実現する仕組みは物理そのものです。
青色LEDとは逆に、こちらがノーベル物理学賞に選ばれたとしても全く違和感はありません。

最近は天文業界でもAstrochemistry(宇宙化学)Astrobiology(宇宙生物学)といった分野が注目を集めています。
もしかしたら将来、地球外生命を発見してノーベル医学生理学賞なんてこともあり得るのかもしれません。






【画像】
最近購入した白色LEDの自転車用ライト、とても明るいです。
電球の柔らかい光も気に入っていたのですが、省電力で長寿命という新技術の魅力に負けました。




2014年11月18日火曜日

2014.11.18

こんにちは。野上です。
京都大学理学研究科附属天文台では、様々な広報普及活動を行っています。附属天文台には京都にある花山天文台、岐阜県高山市にある飛騨天文台の2つがあります。このうち花山天文台は9月から11月前半にかけて、様々なイベントがありました。
 9月3日から10月19日にかけて、京都大学総合博物館や宇宙物理学教室、地球物理学教室などと共同で行われた博物館特別展「明月記と最新宇宙像 -千年を超えて羽ばたく 京の宇宙地球科学科学者たち-」(藤原定家の明月記(国宝)も展示されました!)、10月4日の花山天文台で行われた天文台基金野外コンサート(シンセサイザー奏者の喜多郎さんやホーメイ歌手・全身音楽家の山川冬樹さんほかが演奏されました!)、10月8日の天文台基金月食観望会、10月24日から11月9日の花山天文台Galleryweek2014、11月1日の花山天文台一般公開、11月7日から9日の京都市小学校見学会(これはこの後も続きます)、その間にも別の花山天文台見学が何件かあって、、、という怒涛のスケジュールでした。へー、そんなのやってるんだ、と思われた方は、博物館特別展以外は多分来年も行われますので、どうぞ花山天文台のホームページをチェックしていてください。
これらのイベントは、大学院生もたくさん手伝ってくれて、また小学校見学会では堀川高校の生徒さんも大活躍してくれて、なんとか乗り切れたというところです。それでもなかなか人手が足りないところもあり、財源的にも厳しいので、天文台基金を通して、活動を支援して頂けると大変ありがたいです。ブログの私の前回の記事で書きましたように、今年6月まで私は花山天文台の所属だったので、これらの活動には私もずっと関わっています。
写真は京都市小学校見学会の時のもので、私が花山天文台にある45cm屈折望遠鏡の解説をしているところです。85年前の花山天文台設立時そのままの建物、屈折望遠鏡としては日本で3番目に大きな望遠鏡、望遠鏡は基本的に全て手動、現在稼動している望遠鏡としては多分日本でここだけの重力時計などなど、説明することは盛り沢山です。火星の研究で惑星気象学という分野を切り開いた望遠鏡でもあります。

こういう広報普及活動は、やっていて色々と勉強になりますし、とても楽しいものです。3.8m望遠鏡でも色々と行っていきたいと思っていますので、乞うご期待!




2014年11月7日金曜日

ハンマークラヴィーア

リーダの長田です。
プロの天文学者らしからぬ長田は、夜な夜な観測しているわけでもなく、ブログと言うと音楽のことばかり書いているらしい。いや一般にはそうではない・・・わけでもなく、むしろ全くそのとおりで、バイオリンのメニューインの話、サンサーンスの天才の話、バイオリンの弓の上下の話、チャイコフスキーの1812年序曲の話などばっかりではあるのですが、その第5弾か何かです。ここのところ、訳あって、ベートーヴェンの後期のピアノソナタをしょっちゅう聞いています(そのワケというのはNHKの火曜夜10時に放送されていたドラマなのですが、それは長くなるのでまた別の機会に)。
そして、エミール・ギレリスというすばらしいピアニスト(鋼鉄のタッチとも言われた)のCDがなぜか図書館で目に留まり、ベートーヴェンのピアノソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」を借りてきました。するとまさにその夜に、NHK-FMの「クラシックの迷宮」という知る人ぞ知る抱腹絶倒の番組で「ロプコヴィッツ邸のベートーベン」という放送をやっていました。その番組では、最初にギレリスにも比肩できるルドルフ・ゼルキンの鋼のようなピアノ演奏がバイエルン放送交響楽団と堂々とわたりあうベートーヴェンのピアノ協奏曲「皇帝」が流れ、「しかし、こんな演奏をベートーヴェンは聴くことができたわけではない」と続いたのです。
強く張られた鋼鉄の弦をハンマーでぶったたく現代のグランドピアノは、鉄鋼業が進歩した19世紀後期の産物であり、ベートーヴェンが生きた時代には、チェンバロとは違って弱い音も(ある程度)強い音も出せますよといったフォルテピアノがやっとできて来ていたにすぎません。ピアノ曲というのはチェンバロ類似の楽器でなら何ででも演奏されうるような「鍵盤楽器の曲」だったわけです。そんな頃に、100人のオーケストラを相手にすることもできるようなピアノ協奏曲を書いたり、「ハンマークラヴィーアのために」とわざわざ注記したピアノソナタを書いたりした、それがベートーヴェンの先見の明だったのだと言えば確かにそうなのかも知れません。実際、第29番のピアノソナタは当時のピアノ及びピアニストには演奏不可能だった、そして、ベートーヴェン自身は「50年経てば弾けるようになる」と語ったそうです。
モーツァルトとベートーヴェンを比べてどちらが優れているかなんてことはわかりませんが、少なくとも、その後の大音量のグランドピアノで弾かなければ真価が発揮できないような曲を書いたという意味では、明らかにベートーヴェンは次の世代を切り拓いた作曲家であったと思います。

いったん作って出版してしまえばそれで作者の手を離れるものとは違い、望遠鏡というのはどんどん改良されていくものではあるので、一緒くたにはできませんが、3.8m望遠鏡、今の技術に合わせて作るというだけではなく、何年も先に真価を発揮するような「ぶっ飛んだ」ものにもしたいものだなあ、とも思うのです。

今流行の天文学の観測に間に合わせようなどという姑息なことはあまり考えず、将来を見通して最善の望遠鏡を作っていきたいと考えています。



写真:
ホントに「間に合わせ」の感のある箱の絵が悲しい(でも、安かったので、英語の解説がないことも含め、しかたない・・・とあきらめています、中身で勝負!)けど、ウチにあるピアノソナタの全集の中では一番気に入っています、フリードリッヒ・グルダの見事なパフォーマンスのCD