2013年7月29日月曜日

附属天文台長の柴田です

  来る9月16日(月、祝)~22日(日)に、「花山天文台特別公開ウィーク」を開催します。これは、2013年1月に、京都市から花山天文台が「京都の財産として残したい“京都を彩る建物や庭園”」として選定されたことを記念して開くことになったものです。従来は、花山天文台は1年に一日だけ、一般公開として市民の皆さんに開放していたのですが、今年は上記の選定のお礼の意味もこめて1週間市民の皆さんに開放します。とくに平日に小中学校の子供たちが学校行事の一環として参加しやすいように配慮しました。最終日の22日(日)には、世界的な音楽家の喜多郎さんにお越しいただき、野外コンサートを開催します。この週はちょうど満月の週ですので、お月見をしながら、望遠鏡で月のクレーターを観望しながら、喜多郎さんの生演奏を楽しんでいただこうと思っています。

皆さん、「花山天文台特別公開ウィーク」と「喜多郎さん野外コンサート」に、ぜひお越しください。詳しくは、以下の案内チラシをご覧ください。また、近々、花山天文台のホームページにも申し込みサイトを設けますので、ご注意ください。

喜多郎さんの野外コンサートは、喜多郎さんのご好意によりご自身はボランティアでやってくださいます。(昨年も、金環日食講演会@京大時計台ホールと、「古事記と宇宙」イベント@大和郡山市の両方とも、ボランティアでご参加下さいました。昨年の経緯は、以下にありますhttp://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~shibata/2013/kitaro-shibata.docx)そういうこともあって、入場無料とします。ただし、より良い音楽を聞いていただくためには、それなりの音響設備や会場を準備することが必要です。基本は京大花山天文台の経費で準備する予定ですが、少し足りません。そのため、一口三万円で協賛企業を募集中です。協賛していただいた企業には野外コンサート当日に代表者をご招待し、また、コンサートのパンフレットには企業の広告を載せさせていただく予定です。ぜひ、みなさま、ご支援いただければ幸いです。

「花山天文台特別公開ウィーク」、「野外コンサート」のボランティア要員(会場設営、受付、望遠鏡準備など)も募集中です。ご希望の方は、私(shibata@kwasan.kyoto-u.ac.jp)までご連絡ください。

なお、喜多郎さんは、「今年うまくいけば、今後も毎年やりましょう」、と言ってくださっています。ぜひ野外コンサートを成功させて、「喜多郎さん野外コンサート」を花山天文台の名物にしたいと思っています。みなさま、ご支援、ご協力、よろしくお願い申し上げます。



2013年7月19日金曜日

暑いですね...


光学など担当の岩室です。

梅雨も明けて連日記録的な猛暑日の暑い夏になりましたね。
こういう暑いときに、どのように涼しく過ごすか皆さんも工夫されているのではないかと思いますが、実は望遠鏡も涼しくしていないといけません。

暑い道路の上などでゆらゆらと陽炎が揺らめく光景は、大抵の人が見た事があるかと思いますが、実は、温度の上がった望遠鏡で観測を行うと同様な現象が鏡の上で発生し、星の像を大きく乱す原因となります。これを避けるため、望遠鏡やドーム内部の床は昼間の間はできるだけ温度が上がらないように工夫する必要があります。エアコンで常に冷やしておくのが理想的なのですが、とんでもなく電気代がかかるのでお金のない大学の施設には難しく、できるだけエコなやり方でドーム内を涼しくしないといけません。







山の上で地下水が出るかどうかわかりませんが、地下水が出るのであれば、ドームの日の当たる側に地下水を散水して温度を下げるとか、地下に空気の配管を通して、地中で空気を冷却してエアコンの代わりにするなど、一般に行われているエコな涼の取り方を色々検討して、ドームの冷却に採用できるものはないか調べる必要があるかなと思うこの頃です。

2013年7月12日金曜日

ガンマ線バーストと連携観測


ボードの太田です。期せずして前回の吉田氏によるブログがガンマ線バーストの話でしたが、今回もガンマ線バーストの話題です。
 
一昨年度より、大学間連携なるプロジェクトを推進していまして、日本各地の大学或いは公共天文台の中小口径望遠鏡(だいたいは1mちょっと程度)そして海外に設置されている日本の大学が持つ中小口径望遠鏡でネットワークを形成して観測を行っています。このような連携を組んでおけば、ガンマ線バーストのような天体が突然出現しても、日本のどこそこ地方は雨で観測できなくても、別の地方では観測可能かもしれません。また、地球上の経度をある程度押さえて観測体制を築いておけば、いつでも観測可能だし、モニター観測も可能になります。更に、ある望遠鏡では、可視の撮像を行って、ある望遠鏡では近赤外線撮像を行い、そしてさらに別の望遠鏡ではスペクトルを撮るといった多機能な観測も可能になります。このような協力体制を築くことによって、研究の効率や能力が格段によくなって、これまで単独の天文台では不可能だった研究が可能になります。しかも、観測手段等の教育も連携して行う事も可能になってきます。大学間連携によって、既に、超新星や活動銀河核等で連携観測の成果がでてきています。

 さて、201366日。66日は「雨ざーざー降ってきて」の日ですが、コッペパンではなくて、ガンマ線バーストが出現しました。大学間連携で、それとばかりに観測が行われたわけですが、このうち、名古屋大学の南アフリカの望遠鏡が、近赤外線で明るい残光を検出しました。非常に明るかったので、私なんぞは近くのガンマ線バーストだろうとタカをくくっていたのですが、やがて、赤方偏移が6くらい、つまり127億光年位という報告がでてきました。(この結果は残念ながら外国の望遠鏡がレポートしました。)

 このくらい遠いガンマ線バーストはこれまでにもあったので、それ自体は驚くことではないのですが、遠さのわりにはみかけの明るさが並はずれて明るいのでびっくり仰天したわけです。そこで、すばる望遠鏡で追究分光観測をせねばならないのではないかということで、今度は、すばるのガンマ線バーストチームに、「観測しませんか」というメールを投げて、その晩のうちに可視分光観測を実行することになりました。その結果、非常に質のよいスペクトルが取れました。こんなに遠い天体で、こんなに良質のスペクトルをとることは普通できません。ガンマ線バーストならではの観測データです。普段暗い銀河を相手にしている私は、並はずれてきれいなスペクトルを見て感激した次第です。(実は感激の背景には語るも涙(?)の個人的な話があるのですがそれは省略します。)すばるガンマ線バーストチームでは慎重にしかし大急ぎでデータ処理解析し、データのモデル解析を行いました。この際、上記南アフリカ天文台で得られた観測結果も大いに役にたちました。このすばるによる観測結果から、宇宙の再電離問題に(多少大げさに言うと)人類史上初の非常に大きな一石を投じることができそうになってきています。これを書いている時点では、まだ、内容の詳細やスペクトルを見せるわけにはいきませんので、ご容赦ください。

 近年このような連携的観測で、科学的成果が出てくるケースが多くなってきているような気がします。3.8m望遠鏡は大学間連携の中核として活躍することが期待されています。是非早く完成させて、こういったドキドキものの観測で大いに活躍してもらいたいものです。

2013年7月5日金曜日

ガンマ線バーストと残光と3.8m望遠鏡



 ボードの吉田です。本日はガンマ線バーストについて、おはなししようと思います。
 
3.8m望遠鏡の観測対象の一つは、ガンマ線バーストと呼ばれる天体現象である(*)。ガンマ線バーストとは、宇宙の一角から突然強力なガンマ線が地球に降り注ぐ現象である。
 
 このガンマ線バースト、1960年代にアメリカの核査察衛星が発見したのは、あまりに有名な話である。ソ連の核実験を監視(核実験をすると大量のガンマ線が出る)していたアメリカの軍事衛星が、突然、目もくらむようなガンマ線が空から降り注ぐのを観測したのだ。軌道上で核実験か? 一体どこで? だが、軍事衛星はその後も次々と空からやってくる超強力なガンマ線を捉え続けた。これは自然現象に違いない。この結論が得られるまで5年の歳月を要した。かくして1973年、正体不明の自然現象ガンマ線バーストが世に知られることとなった。
 
 天文学・物理学業界は、騒然となった。こんな現象は、誰一人として予想していなかった。天体がガンマ線を出すというだけでも驚異なのに、空の一点から、衛星のガンマ線検出器が一瞬で飽和してしまうほどの強力なガンマ線が来るとは! しかも、あっという間に消える。一体何なんだ。数々の理論が提唱され、観測機器が開発された。
 
 だがそれから実に30年間、問題は解決しなかった。ガンマ線観測専用の科学衛星がいくつも打ち上げられた。確かにガンマ線バーストはたくさん検出された。
データは膨大に蓄積された。しかし、いくら観測してもその正体が分からない。
そもそも、これが太陽の近くで起こっている現象なのか、宇宙の果てで起こっている現象なのか、それすら分からない。ガンマ線放射源のエネルギーにして、実に100×100億倍(!)近い不定性があった。こんな根源的なレベルで分からない天体現象も珍しい。それが30年近くも続いたのだ。

 そして1997年。世の中は変わる。この年の228日、ガンマ線バーストが起きた。観測した衛星がこのバーストを素早くX線でも観測したところ、強いX線源を見つけた。早速、地上の望遠鏡がその位置に向けられた。すると、それまで何もなかったところに可視光で光る天体があるではないか! それはみるみる暗くなり、すぐに見えなくなった。ガンマ線バーストの「残光(アフターグロー)」の発見である。ガンマ線バーストは、何と可視光の残光を残すのだ。可視光で詳しく調べればガンマ線バーストの正体が分かるかもしれない! 天文学者達は望遠鏡を用意して待ち構えた。そしてその年の58日、再びガンマ線バーストの可視残光が捉えられた。その残光が消えた後、そこにはかすかにぼーっと光る天体があった。それは、何十億光年も彼方の銀河であった。ガンマ線バーストは、はるか彼方の銀河で起こっていた現象だったのである。
 
 その後、世界中で、ガンマ線バースト残光の観測研究が精力的に行われた。X
線、可視光、電波などさまざまな電磁波を出す残光は、ガンマ線だけでは到底分からない数多くの物理情報を与えてくれた。その結果、ある種のガンマ線バーストは遠くの銀河で起きる星の大爆発であることが分かった。宇宙最大の爆発現象である。人類は、発見から30年以上を経て、ようやくガンマ線バーストの正体をつかみ始めたのだ。

 しかし、新たなナゾも数多く発生した。一体どうしてこんな強力なガンマ線が出るのか? どんな星が爆発すればこんなことが起きるのか? 星の爆発では説明できないガンマ線バーストもあるが、その正体は何か? 宇宙最初期に生まれた星もガンマ線バーストを起こすか? これらのナゾは今でも解決されていない。解決のカギは残光観測だ。

 ガンマ線バーストは何の前触れもなく突然起こるし、どこで起こるかも分からないし、おまけにすぐに消えてしまう。だからこそ、日本上空で発生したときに、すぐに観測できる体制を整えておかなくてはならない。機動性があり、大集光力を持ち、最先端の観測機器を搭載した望遠鏡。それこそ我らが3.8m望遠鏡である。ガンマ線バーストの解明は、3.8m望遠鏡の大きな使命の一つなのだ。
 
・・・・

 華々しい爆発だけをいくら見ていても、ガンマ線バーストの正体は分からなかった。爆発の残滓、消えゆく残り火が、その正体を垣間見せた。3.8m望遠鏡は、そんな残光を追いかけ、さらに深くその正体に切り込んでいくだろう。